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日本連絡所通信(日本語版)

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夏から秋まで空に向かって揺れる花(2021年10月中旬)

【季節】【自然】【花】【変化】【夏】【秋】

 はじめに一番目のクローズアップで撮ったある花の写真をご覧いただきたい。

 皆さんはこのような花を咲かせる樹木をご存知だろうか。この文章を読んでいただいている皆さんの中には、日々忙しい生活を送っていらっしゃる方々も多いと思うので、おそらく普段こんなに近付いてこうして花をじっくりと眺める機会はほとんど無く、このヒントだけでは絹織物のちりめんのような可愛い縮れた花を咲かせるこの植物の名前を思いつかないかもしれないので、では次のヒントを……!二番目のこの樹の幹の写真を見てほしい、この写真から何か気づくことはないだろうか。
 実は五年ほど前に私はこの花を咲かせる植物の名前を、いま皆さんに問いかけたのと同じような順番をたどりながら、自分の記憶の中から花道を教えていた母が幼い日に語ってくれた話を手繰り寄せて、ようやく答えを見つけたのだった。

 この樹の和名は「サルスベリ(猿滑)」。その名の由来は、幹の樹皮が猿も滑って登れないほどツルツルだからだと云われている。
 では、どうしてそうなるのだろうか。ある本によればその理由は、多くの樹木が成長する過程でその幹を取り巻く樹皮の直下にある形成層の細胞の分裂と成長により、それが表面の古くなった樹皮を内側から押し出す際にいたる所に裂け目を生み出し、古くなった樹皮が細かくそれぞれバラバラに落ちてゆくのが普通であるのに対し、サルスベリの古い樹皮は広い範囲で見事に一斉に落ちるからだそうだ。
 
 このサルスベリの写真は別に観光地のような特別な場所で撮影されたものではなく、私の住む所沢市が駅前へのアクセスをさらに良くする目的で十年ほど前に区画整理を推し進め開通させた「所沢駅西口通り」の歩道に街路樹として植えられたもので、以前ちょうど私がその名を思い出した場所で撮ったもの。しかも、それ以来たまたまこの道を散歩がてらに通ることはあっても、この樹々に気をとめることなどなかったのだが、すでに一年半以上も続いているコロナ禍の影響からあまり遠出ができないこともあって、ある日突然あのサルスベリはどうなっただろうかが気になり出し、もう一度見に行った偶然から生まれたものだ。

 何とサルスベリの樹々たちは私の予想をはるかに超えて成長し、当時三メートルほどだった樹高が現在では倍くらいに達していた。しかもその花のほとんどが私が見上なければならないほどの位置にあり、わずかな風にもゆらゆらと揺れながら、あたかも天に向かって咲き誇っていたのだった。
 だがその日は、手の届かない高いところにある花でも引き寄せて大きく写すことのできる望遠レンズに交換できるようなカメラを持ってはおらず、その日を境に晴天の空を背景にしたゆらゆら揺れるサルスベリの花の様子を一枚の写真に収めたくて、折りに触れてこの場所に足を運ぶことになった。

 幸い7月末から9月末、夏から秋へと季節が移ろっても、サルスベリの花は相変わらず勢いよく咲き乱れ、一向に衰えるそぶりを見せることはなかった。そんなに花期が長い樹だったのかとあらためて植物図鑑を調べてみると、サルスベリが中国から日本に持ち込まれた植物であり、中国では「紫薇」と呼ばれ、同じサルスベリの発音でも漢字で「百日紅」と書くこともできることをあらためて知った。

 日本では樹皮の様子から、中国ではその植えられていた場所や花期の長さに着目されこの樹の名称となったとは……、どうやら「できれば自分の望どおりの写真を撮りたい」という私の想いが、はからずも「所変われば品変わる」という言葉に似た言い得て妙な知識ももたらしたようだ。

 ところで肝心の私の表現したい写真だが、まだ本当に満足できるものが撮れていない状態なので、来年もう一度挑戦してみようと考えており、自宅から歩いても行ける距離にあることも手伝って幸運がもたらされることを願っている。ただ、花もすでに散りごろとなった今となっては、それが叶うかどうかは来年までわからない。

                        文章&写真:吉井孝史

【参考:この文章を書くにあたって調べたこと】
  • サルスベリ
  • 紫薇の読み方
  • 所沢駅西口の道路の名称
  • 樹高の測り方

〔追記1〕
 12月になって再び見に行ってみると、サルスベリは落葉中高木なので、光合成により植物の生命維持や成長のための栄養となる有機物を生み出していた葉もその役目を終えて地に落ち、すっかり幹や枝だけになってしまい、あたかも樹高が低くなったように思われた。

〔追記2〕
 先日、何気なくWikipedia日本語版のサルスベリの項目だけでなく、中国語の同じ項目を確かめてみたところ、日本語版では中国語南部原産と書いてあるのに対し、中国語版ではインド(印度)原産と書いてあることに気づいた。
 ということは、サルスベリはインドから中国を経由して日本にもたらされたことになるのかもしれない。

これは何の花?

この樹の幹には特徴があって……

この歩道を通学・通勤で通る人は多い

今年撮影したサルスベリの写真

「お試しください!」から学んだこと(2021年10月上旬)

【生活】【宅配】【拡販】【御礼】

 私は大新の日本連絡所を一人で運営しているので、コロナ禍が始まるずっと以前から特別な用件がある時以外は相手先に出かけることはなく、ほとんど電話やメール、あるいはコロナ禍が始まって以降はWeb会議などで用件を済ませるので、自宅で勤務する形の“テレワーク生活”をかれこれ十年近く送っている。
 だいたいいつも自宅で勤務しているので、関係のある出版社から送られてくるサンプルなどの受け取りに困ることはないのだが、仕事に集中したい時に限って玄関のチャイムが鳴り、突然の訪問者から“とある商品”の売り込みを受けたりもする。
 幸いコロナ禍の影響からか、そうした突然の訪問セールスを受ける機会も減ったように感じていたのだが、今度は事前に電話連絡が入り「○○の無料のサンプルをご自宅にお届けするので、ぜひこの機会にお試しください!」という業者も現れた。
 皆さんのご想像どおり、そうした“販売促進策”を受け入れてしまえば、あとから「これを機会に定期的に……」となるのだが、そうした“電話攻撃”が入るのはこちらが働いている時間帯が多く、自分が忙しい時などは長々と話したくないこともあって、「そうした申し出が本当にあった時に断ればいいや」と思い、つい「わかりました」と答えたりしてしまう。

 今回はそんなひょんなことから生まれたお話を、日本語を学ぶ皆さんにお伝えしたい。
 
 まずは新聞の定期購読の拡販。実はある新聞の一週間の無料購読サービスを、ちょうど東京オリンピックが終わり、今度はパラリンピックが始まろうとする時期に受け入れたのだが、八月の末になってその時はやって来た。
 私はてっきり自分の地域を担当する新聞販売店の人がやって来ると思い込んでいたのだが、何とやって来たのはその新聞を発行している本社から来た販売促進部門の担当者だった。
 いつものように「新聞を無料で読めたことはありがたいが、生活にそんなゆとりはないので……」と断ったところ、彼は「このコロナ禍で新聞を配って自分で学費を工面している新聞奨学生も、部数が減って困っている」、「朝刊だけの購読で一ヶ月あたり4,000円、朝夕刊で一ヶ月あたり4,400円だが、新聞自体の値引きはできないものの新規購読ならそれ相応のお礼を差し上げるので、その分かなり得になるから三ヶ月だけ購読してほしい」と、私の予想をはるかに超える粘り腰を発揮して譲らなかった。
 結局、かなりの間押し問答が続いていたのだが、はるか昔に大学受験に失敗し浪人生だった若かりしころ私も新聞配達を経験し、新聞配達の大変さを知っていたことと、いったいどんなお礼をどのくらいもらえるのか知りたいという好奇心も手伝って、三ヶ月間朝刊だけという約束で契約してしまった。
 そうした経緯を経て、その日の午後に届けられたのが、一枚目の写真の定期購読のお礼の品々。勿論これは新規の場合で、ずっと同じ新聞を購読していてもこんな豪華な品々をもらえないことは、私の新聞宅配店でのアルバイト経験からも知っているのだが、確かに生活の足しにはなるし、それを狙って新聞自体の紙面の内容などには関係なく定期的に購読する新聞を替える人達がいることも納得できるものだった。
 ただ「販売部数が減少して……」というあの日の彼の言葉が気になって、後日日本新聞協会の発表している資料にあたってみたところ、さすがに今年度の発行部数はまだ資料がなかったものの、およそ二十年前の2000年には53,708,831部の新聞発行部数だったものが、昨年2020年には35,091,944部と大幅に減少し、しかも核家族化がさらに進行し単独世帯と呼ばれる世帯員が一人だけの世帯が増えていることもあってか、発行数の合計を世帯数で割った一世帯当たりの部数は1.13部から0.61部へとこれも大きく減少していることもわかり、新聞宅配業者の苦労の一端を垣間見た気がした。

 お次は乳製品の宅配サービスの話。
 たしか二年ほど前から、半年に一度の割合で事前に電話して来るこうした申し出を受けるようになった思う。その場合、しばらく放置しておいてもあまり支障の出ない新聞とは異なり、必ず「何月何日に保冷剤入りのケースで玄関の前に置いておくので……」という、鮮度が大切な乳製品の試供品提供らしい念押しも入る。一度目は自宅内にケースごと持ち込んだものの、うっかりして玄関付近に放置して何も飲まず、回収に来た業者の人に直接お詫びを言いながら返したのだが、それ以降は回収のために業者が来ても直接継続購入を迫られることはなくなり、ただ黙って玄関先に置いた私の書いた簡単な礼状ときれいに洗った空き瓶が入いったケースを持ち帰るだけになった。
 今回も九月下旬にこうした申し出を受け、すでに定期購入の断り方も心得ていたので、気楽にその申し出を受け入れた。そして一週間ほど経っていつものように滞りなく回収も済んだのだが、今回サンプル品を飲んだ際や同梱されていたパンフレットに、やたらと“身体に大切な栄養素”が含まれている旨を謳っていることが少し気になった。
 そこでこの文章を書くにあたって少し調べてみたところ、新聞業界の事情とは異なることがわかり驚いた。なんと私が見つけた二年ほど前の新聞記事には、ある乳製品メーカーの大手では、1976年の顧客数約350万軒をピークに、80年代になると約120万軒に落ち込んだのだが、2000年代に顧客数は増加傾向となり、約250万軒まで回復し、その後もほぼ横ばい状態で推移しているということだった。
 これは「小容量の飲みきりサイズでいつも新鮮な商品が飲める」「注文しなくても定期的に商品が届くので習慣化しやすい」といった顧客側の理由や、先にふれた「健康を維持していく上で身体に大切な栄養素を含んだ宅配専用商品」を投入することで、高齢者や主婦層の心を掴んだ業者側の努力が大きく影響しているようだ。
 ということで「新聞と同じように顧客数の減少が止まらないのでは……」と考えていた私は、知ったかぶりをして大恥をかくことを免れたのだった。
 お恥ずかしながら、やはり自分の思い込みで勝手な判断を下すのではなく、何事もまずは謙虚に調べたり、自分の目で確かめてみてから考えないと、物事の実態や本質を見誤ることを、今回あらためて学んだ次第だ。

                        文章&写真:吉井孝史

【参考:この文章を書くにあたって調べたこと】
  • 新聞の発行部数と世帯数の推移(日本新聞協会)
  • 人口動態・家族のあり方等 社会構造の変化について(総務省)
  • 牛乳販売店数の推移
  • 雪印メグミルク宅配サービス

〔追記〕
 本文中に私が大学受験に失敗し新聞配達をしていたことを書いたが、それは親に対して何らかの必死さを示す必要があったからで、浪人時代と大学に合格してからも二年ほど朝刊を配り続けたことは事実だが、学費等は相変わらず親に出してもらっていて、新聞を配って得られたお金は全てを自分のためだけに使い、相変わらずの「親の脛齧り」のままだったので、皆さんは決して私が当時いわゆる「苦学生」だったなどと聞こえの良いほうに解釈しないでいただきたい。

三ヶ月定期購読のお礼の品々

玄関前に置かれた乳製品の試供品

保冷剤は明治なのに試供品は雪印?

自社の宅配サービスの良さをアピール

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